伝達特性の測定

伝達特性とは

伝達特性とは?

伝達特性とは、被測定物を、電気・熱・振動等の物理量が伝わる(伝達する)具合を「伝達特性」と呼び、被測定物の振る舞い・挙動を知るための重要なパラメタです。

伝達特性の概念

オーディオアンプでは増幅率等が相当します。温度センサでは熱(入力)と電気信号(出力)との関係が伝達特性です。
電気のインピーダンスは電圧と電流の比なので、電流を入力、電圧を出力と捉えればインピーダンス特性も広い意味での伝達特性と言えます。

伝達特性はどうやって測る?

熱や振動等の物理量では扱いにくいので、トランスデューサやセンサを介して、扱いやすい電気信号で測定します。実際には単純な入出力比だけではなく、応答速度や周波数応答特性が重要なパラメタとなります。応答速度に着目した伝達特性を「時間領域での伝達特性」、周波数応答特性に着目した伝達特性を「周波数領域での伝達特性」と呼びます。

時間領域での伝達特性

波形をイメージしやすく測定が容易だが、数値的管理が難しい
—->測定例:オシロスコープで波形観測

周波数領域での伝達特性

測定器が複雑になりやすいが、数値管理しやすい精密な測定ができる
—->測定例:周波数特性分析器 (FRA)、FFTアナライザ+発振器

伝達特性測定の難しさ

場合にもよりますが、伝達特性測定器は、

  • 広い周波数範囲 (1mHz~1kHz, 1Hz~1MHzの場合など)において、
  • 測定の再現性、確度に影響を有し、
  • 早い測定速度 (生産性の向上)で

測定できることが要求されます。当然、測定確度が高いことも重要です。

この稿では、精密な測定が可能な周波数領域における伝達特性の測定例と、それを容易に実現する測定器について詳しく紹介します。

伝達測定を計測する計測器

伝達特性を測定する計測器

数MHz以下の比較的低い周波数での伝達特性を測定するためには、

  • 信号源を内蔵したFFTアナライザ(FFTサーボアナライザ)
  • 周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)

の2種類が一般的に使用されています。これらはいずれも測定用の内蔵信号源を持ち、被測定回路を通過する前後(入力および出力)の信号を各々ディジタル演算 (フーリエ変換) して、増幅率(ゲイン)および位相を求めて、伝達特性を求める測定器です。 それぞれの測定器について、比べてみましょう。

測定原理の違い

FFTアナライザ

FFTで使用される測定用の信号(内蔵信号源)には、インパルスやランダムノイズ、スエプトサインなどがありますが、何れも広い周波数成分を含んでいることが特徴です。

FFTアナライザの原理
FRA

FRAの測定用信号源は、周波数一定の正弦波です。広い周波数範囲で伝達特性を測定するために、周波数を少しづつ変えて(スイープして)繰り返し測定します。

FRAの原理

測定の正確さ

FFTは、測定レンジを固定して測定します。そのため、小さな成分は雑音に埋もれて測定誤差が大きくなります。
一方、FRAは、一度に1つの周波数成分しか測定しませんので、その都度最適な測定レンジに自動的に設定して測定します。
つまり、小さな信号成分の測定時は、感度を上げて測定することにより、良好なSN比(良好な測定確度)で分析することが可能です。

自由な周波数分解能

FFTでは、周波数軸で等間隔の分析結果が得られます。そのため、周波数軸をログスケールにすると低周波側が粗く、高周波側が極端に高密度なデータとなります。
一方、FRAでは、任意の周波数ポイントで測定できますので、ログスケール上で等間隔にすることもできます。

伝達特性の測定について、FRAとFFTを比較してみましょう。

比較項目 FFTアナライザ FRA
信号源 インパルスまたはノイズ、スエプトサインなど 正弦波
測定信号によって系が飽和する可能性 誤測定に要注意
(飽和の可能性高い)
安全・安心
(飽和の可能性低い)
ダイナミックレンジ 狭い
1レンジで測定
非常に広い
自動レンジ切換え
周波数分解能
(測定点の分布)
サンプリングで決定/周波数に均等に分布 (周波数を対数表示すると、高域に比べ低域が粗くなる) 任意(細かくも粗くも)/周波数に対数的に分布 (周波数を対数表示した時に分布)
測定信号の注入 工夫が必要 容易(アイソレーション信号源)
窓関数の設定 必要(複数の中から選択) 不要
測定手順 1. アナライザの周波数レンジを選択
2. 信号の種類とレベルを決める
3. 窓関数を選択
1. 被測定物の周波数範囲と分解能(任意)を入力
2. 信号レベルと積分回数を決める
測定値の平均化 平均化回数で設定
サーボ系では必ず平均化が必要
積分時間で設定

測定例

測定例

さまざまな分野における伝達特性の測定例をご紹介します。ご紹介した以外の伝達特性の測定についても、お気軽にお問い合わせください。

スイッチング電源の安定度測定 (ループ特性)

ループ特性は、スイッチング電源の安定度を決定するといっても過言ではない重要なファクタです。不適切なループ特性だと安定度が低下し、入力電圧や負荷変動により発振やハンチングを起こす恐れがあります。ループ特性を測定して位相余裕や利得余裕を求めることにより、スイッチング電源の安定度を定量的に評価することができます。

ワイヤレス給電の伝送効率測定

EV充電器などのワイヤレス給電は「磁気共鳴方式」が主流であり、開発が進んでいます。
磁気共鳴方式の共振周波数は数kHzから十数MHzであり、共振周波数特性の評価には伝達特性測定が必要です。

フィルタの周波数特性

フィルタの通過域や減衰域、過渡応答などの特性を測定します。利得のみならず位相特性も重要な要素です。

メカニカルサーボ

機械的なサーボ特性は、適切な移動速度、正確な位置決めなどがフィードバック制御によって行われています。
ループ・ゲイン測定により制御の評価を行います。

機械的な振動解析

加振器のようなアクチュエータと、加速度センサを用いた機械的な振動解析にも伝達特性の評価が行われます。
FFTは1Hz以下の低周波における高精度測定には不向きです。

インピーダンス計測

電子部品、材料電池などの特性を評価するインピーダンス計測は伝達特性の一つでもあります。

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